東京学芸大学附属高校(東京)進学校分析 ── なぜ東大合格者が減った?日比谷・横浜翠嵐・筑附との比較から見えるもの


自由と堅さが同居する──学芸大附属の素顔

9月6日と7日、東京学芸大学附属高校では「第71回 辛夷祭(こぶしさい)」が開催されている。

校庭にはまだ夏の名残を思わせる蝉の声が響き、模擬店や演劇、ライブのざわめきと重なり合う。普段の“お堅い国立附属”というイメージを、文化祭は軽やかに裏切っていた。

テーマは「辛夷進化論」。その名のとおり、生徒たちは自由な発想を思い切り形にしている。

学芸大附属は、東京学芸大学の教育実験校という位置づけを持つ。
自主性を重んじる一方で、進学実績の面ではかつて東大合格者を100人以上輩出した強豪。
だが近年は数字を落とし、日比谷や横浜翠嵐といった公立トップ校に押されている──そんな声も少なくない。

文化祭のにぎわいの裏で、この学校はどんな変化を経験し、どんな未来を描こうとしているのか。

この記事では、進学データと校風、そして出身者の顔ぶれを通じて、学芸大附属の現在地をひも解いていく。


学校データ──国立附属の“実験校”

東京学芸大学附属高校は、1954年に創立された国立附属高校である。
所在地は東京都世田谷区下馬。全校で約960名、1学年8クラス編成という大規模校だ。
帰国子女の受け入れ実績もあり、男女比もほぼ半々。全国の附属高校の中でも規模の大きさで知られている。

SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定校であり、SGHアソシエイトにも選ばれるなど、教育研究の拠点校という側面を持つ。
授業は自主性を重んじ、レポートやプレゼンが多い。
1年次に年間2〜3本、2年次には理系で週1本のレポートが課されることもあり、「大学さながらの課題負担」はこの学校の大きな特徴だ。

一方で、部活動や文化祭「辛夷祭」も盛んであり、学芸大附属の生活は「自由と多忙が同居する日々」と表現できる。

東大合格者数で全国のトップに並んだ時代から、教育実験校としての独自色まで──この学校は常に、進学実績と教育理念の狭間で揺れ動いてきた。


進学実績の推移──かつての王者と現在地

かつては東大合格者100名を超え、全国有数の実績を誇った学芸大附属。
だが2000年代以降、その数字は少しずつ落ち込み、2010年代には50名前後、そして現在は20名前後にとどまっている。

一方で、同じ首都圏の筑附、そして日比谷や横浜翠嵐といった公立トップ校が台頭し、逆転現象が起きつつある。

年度 東京学芸大附属 筑波大附属 日比谷 横浜翠嵐
2000854052
2005813683
201054352812
201540405540
202028357065
202522308174

※数値は公開データ+参考値

この表から見えてくるのは、「学芸大附属の減少」と「日比谷・翠嵐の急伸」だ。
かつて国立附属として圧倒的な数字を誇った学芸が、いまや公立トップ校に追い抜かれている。

その背景には何があったのか──次の章で詳しく見ていこう。


強豪から試練へ──数字が示す変化の理由

2000年以前には東大合格者が100名を超え、灘や開成にも匹敵する圧倒的な進学校だった学芸大附属。

だがその後、合格者数は緩やかに減少し、2010年代には50名前後、2020年代には20名前後へと縮小していった。

「なぜ学芸はここまで数字を落としたのか?」──その問いに答えるには、いくつかの要因を重ねて見ていく必要がある。

まず内部進学の構造に目を向けたい。
「附属小から上がってくる層は抽選で入っただけで、学力的には緩い」というイメージを持つ人もいる。

しかし実際には、多くの家庭が幼児期から“お教室”と呼ばれる塾に2年前後通わせる教育熱心な層であり、内部生の学力は決して低くない。

つまり内部にも優秀層はしっかり存在しているのだ。

ただし、その最優秀層は中学受験で外部に抜けやすい
筑駒や開成、桜蔭、早慶附属といった進学校にシフトする生徒が一定数いるため、
附属中にそのまま残る層は相対的に学力の平均値が下がってしまう。
そして、その後に入学してくる中学受験組はもちろん優秀ではあるが、
抜けていったトップ層の水準に比べるとどうしても落差がある。

さらに、高校受験で入ってくる層もかつてほど厚みがなくなった。
日比谷や横浜翠嵐といった公立トップ校が復権し、「東大を目指すなら公立へ」という流れが強まったことで、学芸大附属の高入組も相対的に苦戦。

内部から外部へ、そして外部から公立へ──この二重の流出構造が、大学進学実績の低下につながっているのである。

だが、数字が落ちたからといって学芸大附属の存在意義が消えたわけではない。
むしろその環境の中から、型破りな人材が次々と輩出されている。

お堅い校風? それとも自由の土壌?──卒業生の顔ぶれ

学芸大附属は「国立附属=お堅い」というイメージを持たれることが多い。
だが卒業生の顔ぶれを眺めると、その印象は大きく裏切られる。
むしろエキセントリックで個性的な人材を数多く輩出しているのだ。

芸能や文化、学術、政治からスポーツや芸術まで、卒業生の顔ぶれはきわめて多彩だ。中田敦彦や茂木健一郎のように強烈な発信力を持つ人物もいれば、考古学者の吉村作治、ボディビル界の伝説マッスル北村、世界的ヴァイオリニスト前橋汀子、人気YouTuberたむらかえ、のように「なぜ学芸から?」と思わせるような異彩を放つ人材が並ぶ。

いずれも既成の枠にとらわれない発信力を武器に、社会に強いインパクトを与えてきた人物だ。

政治の世界では、元法務大臣の千葉景子をはじめ、渡辺浩一郎、木村義雄らが活躍。
学術・教育の分野でも、経営学者の入山章栄といった論客を輩出している。

この多彩な顔ぶれに共通しているのは、どこか突き抜けているという点だ。

学芸大附属の自由で探究的な校風は、単に東大合格者数を稼ぐだけではなく、
社会に強い個性を放つ人材を生み出してきた。
進学実績だけでは測れない「学芸らしさ」は、こうした卒業生の軌跡に表れている。


復活への道──自由と実績の両立を目指して

進学実績の低下は事実だ。
しかしそれは「学芸大附属が終わった」という意味ではない。
教育実験校としての役割を守りながら、いくつかの工夫を加えれば、再び進学校としての存在感を取り戻すことは十分に可能だ。

第一に、選抜方法の見直しである。
現在は内申点が重視されるため、「優秀だが内申が伸びにくい層」が他校に流れている。
試験点を中心に評価する仕組みを導入すれば、学芸を志望するトップ層を再び呼び込めるはずだ。

第二に、課題負担の調整である。
研究レポートやプレゼンは学芸の強みであり、そのまま残すべきだ。
ただし全員一律ではなく、希望制や選択制を導入すれば、
「大学受験に集中したい層」と「探究活動に没頭したい層」が共存できる。
自由と効率の両立こそ、附属校ならではの実験的試みといえるだろう。

第三に、進学直結のサポート強化だ。
東大・医学部志望者向けのゼミや講座を部分的に設けるだけで、
「探究型」と「受験型」の両方をカバーできる。
すでにSSHやSGHで研究型教育の実績があるのだから、
そのノウハウを進学実績の底上げにも活かせるはずだ。

こうした工夫は、単なる受験校化を意味しない。
むしろ、「自由を守りながら数字も伸ばす」という、学芸大附属にしかできない挑戦である。もしそれが実現すれば、かつて東大合格者100名を超えた伝説の時代にもう一度近づくことも夢ではない。

数字に一喜一憂せず、自由と実績の両立を追求すること。
それこそが、学芸大附属が再び輝きを取り戻すための道だ。


時代とともに進化する学芸大附属

進学実績では、公立トップ校や他の国立附属に追い抜かれた学芸大附属。
だがその教育方針は、単に数字を追うのではなく、自主性と探究心を育む「教育実験校」としての使命に根ざしている。

近年では、東北大学をはじめとする大学が、一般入試だけでなく、
それまでの活動実績や探究成果を重視する入試を広げつつある。
そう考えれば、学芸のレポートやプレゼンに象徴される教育は、むしろ時代を先取りしているとすら言える。

とはいえ、入学希望者の多くが望むのは「自由な校風」だけではない。
「大学進学でどこまで成果を出せるか」もまた、受験生と保護者にとって大きな関心事だ。
学芸が次の時代に進むためには、探究教育を守りながらも、受験ニーズに応える柔軟さが欠かせない。

東大合格者100名を誇ったかつての伝説も、辛夷祭に象徴される自由な文化も、
すべては学芸大附属という学校の二面性から生まれている。
自由と実績を両立させたとき、再び「特別な学校」としての輝きは戻ってくる。


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