灘高等学校(兵庫)進学校分析-なぜ進学実績で異常な強さを誇るのか

日本最強、それでいて“いちばん変な学校”

「灘高校」──その名を知らぬ受験関係者はいない。
東京の開成と並び称される名門にして、関西最高峰の進学校
難関中学の最終志望として憧れられ、親世代からも「灘に入れたら勝ち組」とされる──そんな特別な存在だ。

だが、この灘という学校。
その実態を少しでも覗くと、誰もが同じ疑問を抱く。

えっ、進学実績こんなすごいのに……こんな自由でいいの?

校則なし。制服なし。挨拶なし。
授業中に内職する生徒はいても怒られず、先生との距離はやけに近い。
しかも、東大合格者が90人出ようが、誰も騒がない。

“日本一の進学校”なのに、“日本でいちばん空気がゆるい”。
そして、そのゆるさの中に、超人的な努力・知性・戦略・競争が息づいている──

この記事では、2022年〜2025年の進学実績データをもとに、灘の本質をバラエティ豊かに読み解いていく。
東大・京大・医学部ラッシュの数字の裏にある、“モンスターたちの生態”に迫ろう。

進学実績が語る“異常値”──理Ⅲ・京医が当たり前の世界

灘高校の進学実績は、全国でも群を抜いている。とりわけ驚異的なのが、東大・京大・医学部への合格者数だ。

以下は、2022年〜2025年の進学実績の推移である。卒業生は毎年およそ210〜220名。そのうち、実に3人に1人が東大に合格している。

年度 卒業生数 東大 京大 理Ⅲ 京医 医学部計
202222192(62)48(36)10(8)20(15)86(48)
202322086(66)42(31)15(14)17(14)76(47)
202421894(71)53(38)12(12)25(14)95(40)
202521477(59)50(37)9(7)19(14)84(48)

※( )内は現役合格者数

この表を見て何を感じるかは人それぞれだろうが、最も重要なのは、「医学部が“進路の中心”になっている」という点だ。

東大理Ⅲ・京大医学部・阪大医・慶應医・防衛医大──あらゆる難関医が並ぶ灘の進路掲示板は、もはや「医者になるための一覧表」にすら見える年もある。

実際、2024年には医学部進学者が95名、2025年にも84名。卒業生の約4割が「医者になる」と決めている高校。それが灘だ。

その圧倒的な数字の裏には、天才たちの「普通ではない日常」が隠されている。

常識が通じない──天才たちの異常な日常

「勉強しなくても頭がいい」のではない。“常識のスケールが違う”のだ。

たとえば──
ある年、灘から東京大学理科三類に合格した生徒が、東大国語を「漢字1問」だけ書いて提出していた。目的は、その1問の配点を調べたかったからだという。

だがその生徒は、なんとその漢字を書き間違えて国語は0点。それでも理Ⅲに合格した。
彼はすでに、秋からMITに進学することが決まっていたという。

このエピソードを「wakatteTV」の中で紹介したのもまた、灘の別の理Ⅲ合格者。
その生徒は東大オープン模試で理Ⅲ10傑に入っていたという超トップ層。
しかも驚くべきことに──その2人の上に、さらに“校内首席”がいたのである。

灘という学校では、理Ⅲに2人受かっても、首席はまた別の超人という世界が展開されている。

YouTubeチャンネル「雷獣」の1人、ベテランち氏も灘出身。彼が合格した2016年、
灘は理Ⅲ20名中17名現役合格・京大医学部25名中13名現役という、まさに“神がかった年”だった。

同じく雷獣メンバーのかべ氏は一橋大学に進学しているが、「灘では2軍だった」と語っている。
一橋で“2軍”──この感覚が、すでに常識では計れない。

そう、灘とは“モンスターたちの集まり”なのである。

“下からの理Ⅲ”──灘の中で伸びる者たち

灘高校には、中学から進学する内部生と、高校受験で入ってくる外部生がいる。

中入生は「ダイヤモンドの原石」※雷獣 ベテランち氏談。
全国の小学生トップ層が6年越しの覚悟で挑む、最難関中学入試を勝ち抜いた天才たち。
一方、高入生は、公立中や他の私立上位校で突出した成績を収めた「完成品」のような存在である。

そして灘では、この高入生たちが入学直後、中位層にすっぽりと食い込むのが通例だ。
中学からの内部生の多くは、最初はこの新戦力に押し下げられる。

だが、それが終わりではない。
灘の真の凄さは、「下からの巻き返し」が日常的に起こることにある。

外部生に押し下げられた“原石”たちが、高2・高3になる頃には再び輝き始めるのだ。
奮起し、食らいつき、伸びていく──そして最終的に、理Ⅲや京医といった最高峰へとたどり着く

雷獣・ベテランち氏もその一人。
入学当初は成績下位に位置していたが、地道な努力を積み重ねて理Ⅲへと到達した。
灘では、こうした「静かなる逆転劇」が、ごく当たり前のように起きている。

つまり、灘は天才が天才に刺激されて成長する学校なのだ。

灘を目指す狂熱──伝説の入江塾と“人間力”の系譜

かつて、大阪に「灘を目指すための私塾」があった。名前は伸学社──通称「入江塾」。

昭和32年の創立から昭和61年までの約30年、塾長・入江伸が貫いたのは、「人間7割・学力3割」という哲学だった。

成績が悪くても、やる気があれば無試験で受け入れた。
ランニングシャツ姿で檄を飛ばし、家に帰さず塾で勉強させ、時には泊まり込み
「勉強に休みはない」が合言葉で、生徒は当番制で掃除や食事係まで担った

塾生の中には、中3でも中1のクラスに入れられる者もいた。
だが、その濃密な時間の中で、彼らは成績と人格の両面を鍛え上げられていった。

伝説的エピソードも多い。
ある年、灘の募集定員55名に対し、入江塾から30名が合格したこともあったという。

芸人・ラサール石井氏もこの塾の出身。灘受験で不合格となり、九州のラ・サールに向かう寝台列車で、
見ろ、これが敗北者の姿や」と塾長に言われたという逸話が、今も語り草になっている。

入江塾の精神は、やがて鉄緑会にも引き継がれていく。
その創設メンバーには、灘出身の和田秀樹氏の名がある(現在の鉄緑会はベネッセ運営で、本人とは無関係)。

つまり、灘という学校は、天才が勝手に集まってきた場所ではない。
そこへ届くために、狂気にも似た熱量と指導が、外縁で何十年にもわたって積み重ねられてきたのである。

灘と筑駒──東西の“異能”が交差する場所

灘に匹敵する存在。それは、東京の筑波大学附属駒場高校(筑駒)しかない。
東西の双璧。進学実績もさることながら、その思想と文化のコントラストが、両校を唯一無二の存在にしている。

灘は「突き抜けた自由」の学校だ。制服なし、校則なし、定期テストの答案は手元に残る。評価よりも自己内省を重んじ、“何を学ぶか”よりも“どう生きるか”を試される空間である。

一方、筑駒は「完成度の高さと密度の濃さ」で勝負する。少数精鋭、圧倒的な知の統制。論理的思考を磨き、知識を“組み替える力”を育てる。その環境は、知の温室であり、選抜された頭脳の交差点でもある。

進路にも違いがある。
灘の生徒たちは医学部志望が圧倒的。理Ⅲや京医を目指す流れがデフォルトのように存在する。
だが筑駒は、東大理Ⅲこそ多いものの、それ以上に多様な進路選択が見られる。法学部、文学部、教養学部──文理を問わず、自らの知的関心に従って進む生徒が多い。

そして何よりの違いは、“選ばれ方”にある。
灘の中学入試は、広く門戸を開いた中での熾烈な選抜。努力と才能が交差する場だ。
対して筑駒は、「超狭き門」の中に、“既に何かを持った者”を見出そうとする。点数では測れない、なにか特殊な感性──それを見抜く試験である。

自由と密度。開放と統制。
灘と筑駒は、まるで知性の両極に立つ存在である。だが、どちらも「学校という器が生徒の可能性を制限してはいけない」という哲学を持つ点では、完全に一致している。

このふたつの学校が、ともに“普通ではない”ことだけは確かだ。

東大も、医師も、MITも──灘の“出口”

2025年度、灘高校の卒業生約220名のうち、東大に77名(現役59名)が合格。そのうち理科三類には9名(現役7名)京大医学部には19名(現役14名)が進んだ。理系トップ進路の王道である医・東大理系への圧倒的な比率──これが灘の出口の“標準形”である。

実に、卒業生の約4割が東大か京大に進学しており、その多くが医師を志す。進路説明会でも「文系に進む生徒の方がむしろ珍しい」と言われるほど、灘において医進は自然な選択肢だ。しかも、医学部人気一辺倒ではなく、東京大学の理系学部、特に理Ⅰ・理Ⅱにも多数進学しており、将来的に研究職や技術者の道を目指す層も厚い。

そして、近年目立つのが海外進学という第3の出口である。2025年度も、アメリカ・MIT(マサチューセッツ工科大学)に進学する生徒が報告されており、学力だけでなく語学力・リーダーシップ・課外活動の実績を揃えたハイブリッド型の生徒が台頭している。

灘高校の出口は、もはや「東大か、それ以外か」ではない。東大・京大・医学部の三本柱に加え、海外のトップ大学までがリアルな選択肢として定着しつつある。しかも、それが特別なコースに分かれているわけではなく、同じ教室で育った仲間たちが、異なる未来へと羽ばたいていく。

この“進路の多様性”こそが、灘という学校の底力であり、真の進学校としての完成度の高さを物語っている。すべての進路に共通しているのは、「自分で選び、責任を持って進む」という覚悟。学校の指導方針がそれを下支えしているからこそ、進学先がどこであっても、灘生は自然体でその道を歩む。

場所を越える──灘という“特異点”

灘高校があるのは、兵庫県神戸市東灘区。大阪市でも京都市でもない、いわば“関西の中心”とは言い難い場所だ。最寄り駅の阪急「王子公園駅」からは急坂を登る必要があり、決してアクセスの良さで選ばれる学校ではない。

だが、それでも毎年全国から優秀な中学生が集まってくる。東京のように難関校が密集する環境もなければ、全国的な知名度を支える大規模なプロモーションも行っていない。それでもなお、灘には人を惹きつける“磁場”が存在する

その磁場とは何か──一言でいえば「結果がすべてを証明している」という圧倒的な説得力だ。地域性を超えて、全国どこからでも「あの学校でなら」と思わせる進学実績。さらに、医学部や東大といった出口だけでなく、その過程で培われる個の自由・思考力・探究心もまた、灘を唯一無二にしている。

関西圏の中学受験において、灘は単なる“最難関”ではない。あらゆる価値観を超えた「別枠」として、灘を受けるか受けないかで人生の方向性が変わる──そんなレベルで位置づけられている。立地も環境も関係ない。「灘かどうか」だけが判断軸となる、それがこの学校の持つブランド力だ。

物理的な場所は神戸でも、灘の教育空間は、全国のどこにも属していない。そこにあるのは、あくまで“灘”という一つの生態系。関西にある東京以上の学校──そう呼ぶにふさわしい存在が、ここにある。

灘という奇跡──天才と自由が交差する場所

天才は育てられるのか──灘高校は、この問いに一つの仮説を提示している。それは、規律ではなく自由、競争ではなく尊重、指導ではなく信頼という形で、生徒に“まかせる”教育だ。

にもかかわらず、あるいは、だからこそ、灘からは東大理三に毎年10名前後の合格者が現れ、京大医学部・東大文系・海外大進学など、出口の多様性も際立つ。「個」が極限まで鍛えられる空間だからこそ、それぞれが自分の軸で世界へ飛び出していく。

それは教育の理想像であり、同時に現実離れした奇跡のようでもある。普通の学校では成り立たないはずの方法が、灘では日常になる。“変わっている”ことが尊ばれ、“はみ出す”ことが推奨される──そんな空気の中で、誰もが自由に伸びていく。

もちろん、その背後には親の強い理解とサポート、地域に根づいた教育文化、そして歴代教員の情熱がある。だが、何より大きいのは、生徒一人ひとりがその空気を“引き受けている”という事実だ。灘という環境を与えられたのではなく、灘という舞台を自ら使いこなしている──それが、この学校の強さである。

灘は、進学実績という数字では測れない。いや、むしろ進学実績で語るにはスケールが小さすぎる学校だ。ここには“人間の可能性”がある。そしてそれは、自由の中でしか生まれない。

この奇跡のような場所が、関西の一角で今日も静かに稼働している。見学しても、真似しても、決して同じものは作れない。それが、灘高校という“教育の異次元空間”なのだ。


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